ちょっとお得情報@介護保険

住民票1枚で月3万2000円もお得


特別養護老人ホームでは家族主義から個人主義への移行が始まった。
改正介護保険法による様々の制度改定は来年4月からだが、施設の居住費や食費の見直しだけは、10月から実施された。これにより、予想外の「事件」が起きている。ある程度の収入のある入居者たちが、子供たちの世帯から外れることで、支払い額を大きく下げる動きが出てきたのだ。結果的に、「家族は一体」という日本的な家族主義から抜け出し、個人主義に移行したわけで、それは良しとする声が多い。だが、介護保険の財政の面からみると、「あまり喜べない」のが厚労省自治体の本音のようだ。


高齢者の「自立」へ後押し


これまで介護保険の中から出ていた居住費と食費の調理分が、保険外に変わった。原則として、事業者と利用者の自由契約になる。
在宅の要介護者は、家賃や食費は自分の財布から出しているのに、施設入居者は保険でそうした生活費の面倒を見てもらっているのは不公平だ。高齢者には年金があるのだから、施設入居者には二重払いになる。そんな論は、介護保険スタート時からあったが、ここへ来て介護保険財政が窮屈になって来たため、即、実施され、入居者に転嫁された。だが、その全額をすべての入居者に負担してもらうのは、低所得者には厳しい。
そこで、年金などの収入が年間266万円未満の人には、国や自治体が補てんすることになり、実質的にほとんど増額されなかった。
問題は266万円以上の人。
例えば、要介護5で4人部屋の特別養護老人ホーム入居者のAさんの場合。9月まで月5万3000円だったが、10月からは9万円に跳ね上がる。この特養は1日の食費を1700円とやや高めに決めたこともあるが。相当の値上げだ。「これでは母の年金では追いつかない。私の年金を注ぐのは苦しい」と、Aさんの息子が特養に相談に行った。
すると、担当者から「Aさんの住民票をここに移せば世帯主になる。Aさんの年金収入は266万円からぐんと下がるから、収入段階が1クラス落ちて、自治体などの補てんが入る」と説明され、早速、住民票を移した。
そして、月の支払額は5万8000円になり、わずか5000円のアップにとどまった。
その息子は「母の育った家なので、住民票を移すのは嫌だったが、背に腹は代えられない。こちらの生活が大事ですから」と言う。
ここで高齢者の収入というのは、同一世帯の同居家族の合計だから、こうして世帯を分けると、該当の収入が下がることになるわけだ。他施設に波及するかが問題
同じことは、老人保健施設や療養病床という他の介護施設でも起こること。
特養と違って、自宅に戻るのが原則だが、実態は、特養の空きベッド待ちで入所している人も多く、2、3年の長期滞在者も多い。
一斉に住民票の移動が起きたらどうなるか。特養の入居者で年収266万円以上は16%だが、老人保健施設や療養病床では60%にのぼり、その人たちに補てんしなければならなくなると、相当な金額に達するのは明らかだ。
財政面への影響は大きく、関係者が恐れるわけだ。
介護保険は、日本の他の社会保障制度や税制などと違って徹底した個人主義で成り立っている。同居家族のあるなしで、受けられるサービス量に違いはない。家族介護を排して、介護の社会化がスローガンだった。
家族を断ち切るところから始まった。個人の介護必要量が唯一の物差しだ。
個人主義だから、老人が世帯主になるのが当たり前である。
Aさんは、目先の支払額という「不純な」動機だが、介護保険の精神からすると正しい行動を選んだといえよう。
ただ、扶養手当や税の扶養控除、遺産相続など日本の各種制度は、「子が親を扶養する」のを良しとし、便宜を図っている。これらを支えているのが民法。「親を扶養する義務」を子に課しているのである。今回の制度改正が、この民法規定の論議を呼び起こすことになれば、状況は大きく前進するのだが・・・・。